天使禁愛(十七)
キリエにとってガイという存在はとても大きく、その姿はいつも輝いていた。
その日、キリエはガイを探して楽園内を歩いていた。チームのリーダーであり、キリエにとって最も大切な存在であったガイ。時間さえあればキリエはガイの傍にいた。
ガイはとても優しくて強かった。身長も高く体もガッチリとしていて男らしいために女たちからは人気が高く、毎日のようにプレゼントが届き、告白もされたりしていたが、当の本人は交際の申し入れなどは片っ端から断っていた。
きっと今は恋よりも友情の方が優先なのだろうと皆は言い、ガイも笑うだけで何も言わなかった。
そんなガイに少なからずキリエは恋をしていた。しかし同性同士の恋愛は禁忌であり重罪に値するものであったため、その感情はずっと心の中にしまっていたのだ。
彼に恋人が出来れば仕方ないし、それが恋愛であるし、それでいいと思っていた。同性同士なのだから一生自分とガイが恋人になることはないし、抱き合うこともないのだから。友でいられるだけで十分だと。
しかしそんなある日、キリエの中の感情を狂わせる事件が起きた。
探しに探してようやくガイを見つけたキリエは、遠くにいる彼に向って声をかけようとした。しかしガイの目の前には誰かがいた。リキだった。リキと一緒にいるからといって別に声をかけてはいけない理由はない。今度こそキリエは大声でガイの名を呼ぼうとした。
その瞬間、ガイはリキの体を突然押し倒したのだ。とっさのことに驚きキリエはかける声を飲み込んでしまった。そしてそのまま二人の様子を陰からこっそりと覗くことにした。
喧嘩ならば止めに行けばいいし、躓いて転んだのなら立ち上がったのを見計らって声をかければいい。そう思っていたが何やら二人の様子は違っていたようだった。
ガイは嫌がるリキの衣服を無理やり剥がし、獣のような表情でリキを襲い始めたのだ。訳も分からずキリエはその場から一歩も動くことができなくなってしまった。
強姦ならば緊急コールで人を呼ばなければいけないのに、キリエはそれもせずにただじっと見ているだけ。気が付けばリキの体はボロボロになり血と精液で全身はドロドロになっていた。それでもガイはリキを犯し続け、リキの首を思い切り絞めだしたのだ。
苦しそうにもがくリキを見ながらガイは叫んだ。
〝リキ、愛しているんだ!!〟
その瞬間、キリエの全身から血の気が引いた。何もかも聞こえなくなり、頭の中が真っ白になった。
今、ガイは何と言った?
愛している?
リキを?
リキを愛している?
(ガイが、リキを、愛している…?)
何度もその言葉を頭の中で繰り返してみた。ガイはリキを愛していると言ったのだ。愛していると。
「…何で、ガイ…、愛してるって…、俺、俺だって…、俺だってガイを愛してるのに…、だって…、だって、それはいけないことで…、でも…、でも、ガイは…リキを…、愛、して…?」
一瞬にしてキリエの心は崩れてしまった。今のガイの言葉によってキリエの中の均衡は音を立てて崩壊してしまったのだ。それを禁忌だと知っていても思うだけならば罪にはならないのだとずっと言い聞かせてきたのに。
ガイはそれを破ってしまった。それを破らせたのはリキ。リキがガイに破らせてしまったのだ!!
そして次第にキリエの中で憎むべき相手はリキになっていった。リキがガイに禁忌を犯させてしまったのだ。だから憎むべき相手はリキであり、守るべき相手はガイだ。ガイを守らなければ。ガイを、ガイを愛しているのは自分なのだから、ガイを守るのは自分なのだ。自分だけがガイを守れるのだ。
壊れてしまったキリエはガイを守ることだけを考えるようになった。ガイを守ることは即ちガイを愛することなのだ、と思うようになってしまった。一方的な、自己中心的な愛がキリエの中に目覚めた瞬間であった。
窒息させられ瀕死のリキを凄まじい形相で未だに絞め続けているいるガイを見て、キリエはこのままではガイが殺人の容疑で罪人にされてしまうと思い慌ててガイの傍まで走った。
放心したままのガイに声をかけるが聞こえているのかいないのか、ガイはじっとリキを見つめたまま動かない。ボソボソと何かを呟いているようでそっと耳を近づけた。すると聞こえてきた言葉にキリエは目を見開き、ギリッと歯を噛み締めた。
「…リキ、リキ、リキ…、愛しているんだ…、こんなに愛しているのに、リキ…、リキ…、リキ…」
「…っ!!」
キリエは嫉妬と悲しみで気が狂いそうになった。ガイが見ているのは目の前にいる死にかけのリキだけなのだ。自分がこうして傍にいるのに存在さえ気付かれていないなんて。
ぐったりと動かないリキを睨み、キリエはガイの手を握った。
「俺を見てよ、ガイ!!」
そう叫んだ。しかしガイの様子は変わらなかった。ひたすらリキの名を呼び、愛していると繰り返し言い続けている。キリエのようにガイも壊れてしまったのだろうか。
キリエは顔を真っ赤にして怒りの感情のままリキを睨み付けた。しかしリキは真っ青な顔をして目を閉じているだけだった。息をしているのかさえわからない状態のリキをもう一度睨み、キリエは無理矢理ガイを引きずるようにしてその場から去ろうとした。
ガイの視線はリキを見つめたままだった。しかし体には力が入っていない。これ幸いにとキリエはガイを半ば引き摺るようにして急いでリキのそばから離れていった。
次第にガイの視線は虚ろになり、ブツブツと何かを呟き続けているがキリエは聞かないようにした。二人の姿を複数人の者が見ていたが遠くからだったために誰も気にする様子もない。
そして残されたリキはやがてユピテルによって保護されることになる。それが事の全容である。統括責任者のオルフェにはユピテルが適当な理由をつけて始末書に記入させた。
だから真実を知る者はユピテルのみで、当事者であるリキとガイ、そしてキリエはそれぞれが堕天使となり記憶を抹消されたために真実は闇に葬られることとなったのだった。
とても嫌な夢を見たような気がする。
うたた寝をしていたキリエはぼんやりとする頭でその夢を思い出そうとしたが無理だった。適当なソファーでゴロリと横になったまま眠っていたせいか少し体が痛かったが、特に気にすることなく欠伸をしながらソファーから降りる。
「はー…、何だかやけにリアルな夢だったような…。まぁ、どうでもいいけど。そんなことよりガイはどこに行ったんだよ…」
辺りを見回すがガイの姿はなく、キリエは少し苛立った様子でチッと舌打ちをした。
最近、ガイはある堕天使に少し熱を上げているらしい。キリエはそれが気に食わなかった。いつもであれば適当に見つけた堕天使を襲って食って捨てて、ただそれだけだったのに。たった一人の堕天使にあのガイが夢中になっているのだ。
名前は何と言っていたか。キリエの苛立ちが膨れだした瞬間、ギイ…と音がして部屋の扉が開いた。ガイが帰ってきたらしい。
ここは魔族長の部屋であり、つまりはガイの部屋で、キリエはいつもそこへノックもなく入り我が物顔でドカリとソファーへ座っているのだ。
ガイはそれを勝手にしろと言わんばかりに気にする様子もないらしい。それを許されているのは昔から親しくしているキリエくらいのもので、キリエもそれをひっそりと心の中で喜んでいる。
まるでそれが自分だけの特権で、自分だけがガイの特別だと言われているようでうれしかったのだ。実際にはガイのような大魔族の長に近寄るような者がいないだけなのかもしれないが。
ほとんどの魔族はガイの凶暴さを知っておりそれを恐れているためになるべくなら遠ざかりたいと思う者を、キリエだけは何故かガイに好意を寄せているのだ。
初めて出会った時からずっとキリエはガイの傍にいたがったし、ガイも別にキリエを近づけようとも遠ざけようとも思っていなかったから好きにさせているだけなのだろう。特にキリエだけを好いているというわけでもなさそうである。
ガイにとってはどれも同じ魔族であり、弱者だった。弱者は殺す価値もないが、歯向かえば殺す。ただそれだけのことだ。
「どこ行ってたんだよ?せっかく来たのに待てど暮らせど戻ってこないし」
「…来いとも待てとも俺は言っていない。お前が勝手に俺の部屋に入って勝手に待っているだけのことだろう?」
「それはそうだけど…」
「…用がないなら出ていけ。ここは俺の部屋だ」
何やら機嫌が悪そうなガイの様子にキリエは少しムッとしたように視線を向けた。
「やけに機嫌が悪いけど、エサが見つからなかったとか?アンタだったらちょっと気配を感じればすぐに捕まえられるだろ。堕天使なんて探そうと思えばそこらに散らばってるんだから」
「ふん、邪魔が入ったんだ。せっかく見つけたと思えば…」
「……見つけたって、何を?」
「…俺のエサ、だ。アレは絶対に生きているはずだ。近いうちにまた地上へ行って今度こそ俺が食う。アレは俺だけのエサだ」
「………」
思い出したようにニヤリと笑ったガイに、キリエは確信した。
ガイの特別なエサ、最近熱を入れている堕天使、例の堕天使を思い出してガイは笑っている。ゴミくずのような堕天使一匹にガイは笑っている。
全身の神経がプチプチと切れていくような気がした。キリエはガイを見て尋ねた。
「…ねぇ、アレって誰のこと?堕天使?」
「ああ、堕天使の…名は、リキ、だったか…。アレは今までの中でも最高ランクの美味そうな匂いをさせていた。だからアレを食うのは俺だ。誰にもアレは食わせん。絶対に俺が食う」
「………リキ…」
ガイが初めて獲物にした堕天使の名前を覚えた。その時、キリエの中で全ての感情が冷え、固まってしまった。
殺すしかない、そう思った。ガイの特別になった堕天使のリキを殺さなければ、自分だけがガイの特別でなければ、ガイの特別は自分だけがなるのだ。リキを殺す。
キリエの口元がニタリと弧を描いた。
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その日、キリエはガイを探して楽園内を歩いていた。チームのリーダーであり、キリエにとって最も大切な存在であったガイ。時間さえあればキリエはガイの傍にいた。
ガイはとても優しくて強かった。身長も高く体もガッチリとしていて男らしいために女たちからは人気が高く、毎日のようにプレゼントが届き、告白もされたりしていたが、当の本人は交際の申し入れなどは片っ端から断っていた。
きっと今は恋よりも友情の方が優先なのだろうと皆は言い、ガイも笑うだけで何も言わなかった。
そんなガイに少なからずキリエは恋をしていた。しかし同性同士の恋愛は禁忌であり重罪に値するものであったため、その感情はずっと心の中にしまっていたのだ。
彼に恋人が出来れば仕方ないし、それが恋愛であるし、それでいいと思っていた。同性同士なのだから一生自分とガイが恋人になることはないし、抱き合うこともないのだから。友でいられるだけで十分だと。
しかしそんなある日、キリエの中の感情を狂わせる事件が起きた。
探しに探してようやくガイを見つけたキリエは、遠くにいる彼に向って声をかけようとした。しかしガイの目の前には誰かがいた。リキだった。リキと一緒にいるからといって別に声をかけてはいけない理由はない。今度こそキリエは大声でガイの名を呼ぼうとした。
その瞬間、ガイはリキの体を突然押し倒したのだ。とっさのことに驚きキリエはかける声を飲み込んでしまった。そしてそのまま二人の様子を陰からこっそりと覗くことにした。
喧嘩ならば止めに行けばいいし、躓いて転んだのなら立ち上がったのを見計らって声をかければいい。そう思っていたが何やら二人の様子は違っていたようだった。
ガイは嫌がるリキの衣服を無理やり剥がし、獣のような表情でリキを襲い始めたのだ。訳も分からずキリエはその場から一歩も動くことができなくなってしまった。
強姦ならば緊急コールで人を呼ばなければいけないのに、キリエはそれもせずにただじっと見ているだけ。気が付けばリキの体はボロボロになり血と精液で全身はドロドロになっていた。それでもガイはリキを犯し続け、リキの首を思い切り絞めだしたのだ。
苦しそうにもがくリキを見ながらガイは叫んだ。
〝リキ、愛しているんだ!!〟
その瞬間、キリエの全身から血の気が引いた。何もかも聞こえなくなり、頭の中が真っ白になった。
今、ガイは何と言った?
愛している?
リキを?
リキを愛している?
(ガイが、リキを、愛している…?)
何度もその言葉を頭の中で繰り返してみた。ガイはリキを愛していると言ったのだ。愛していると。
「…何で、ガイ…、愛してるって…、俺、俺だって…、俺だってガイを愛してるのに…、だって…、だって、それはいけないことで…、でも…、でも、ガイは…リキを…、愛、して…?」
一瞬にしてキリエの心は崩れてしまった。今のガイの言葉によってキリエの中の均衡は音を立てて崩壊してしまったのだ。それを禁忌だと知っていても思うだけならば罪にはならないのだとずっと言い聞かせてきたのに。
ガイはそれを破ってしまった。それを破らせたのはリキ。リキがガイに破らせてしまったのだ!!
そして次第にキリエの中で憎むべき相手はリキになっていった。リキがガイに禁忌を犯させてしまったのだ。だから憎むべき相手はリキであり、守るべき相手はガイだ。ガイを守らなければ。ガイを、ガイを愛しているのは自分なのだから、ガイを守るのは自分なのだ。自分だけがガイを守れるのだ。
壊れてしまったキリエはガイを守ることだけを考えるようになった。ガイを守ることは即ちガイを愛することなのだ、と思うようになってしまった。一方的な、自己中心的な愛がキリエの中に目覚めた瞬間であった。
窒息させられ瀕死のリキを凄まじい形相で未だに絞め続けているいるガイを見て、キリエはこのままではガイが殺人の容疑で罪人にされてしまうと思い慌ててガイの傍まで走った。
放心したままのガイに声をかけるが聞こえているのかいないのか、ガイはじっとリキを見つめたまま動かない。ボソボソと何かを呟いているようでそっと耳を近づけた。すると聞こえてきた言葉にキリエは目を見開き、ギリッと歯を噛み締めた。
「…リキ、リキ、リキ…、愛しているんだ…、こんなに愛しているのに、リキ…、リキ…、リキ…」
「…っ!!」
キリエは嫉妬と悲しみで気が狂いそうになった。ガイが見ているのは目の前にいる死にかけのリキだけなのだ。自分がこうして傍にいるのに存在さえ気付かれていないなんて。
ぐったりと動かないリキを睨み、キリエはガイの手を握った。
「俺を見てよ、ガイ!!」
そう叫んだ。しかしガイの様子は変わらなかった。ひたすらリキの名を呼び、愛していると繰り返し言い続けている。キリエのようにガイも壊れてしまったのだろうか。
キリエは顔を真っ赤にして怒りの感情のままリキを睨み付けた。しかしリキは真っ青な顔をして目を閉じているだけだった。息をしているのかさえわからない状態のリキをもう一度睨み、キリエは無理矢理ガイを引きずるようにしてその場から去ろうとした。
ガイの視線はリキを見つめたままだった。しかし体には力が入っていない。これ幸いにとキリエはガイを半ば引き摺るようにして急いでリキのそばから離れていった。
次第にガイの視線は虚ろになり、ブツブツと何かを呟き続けているがキリエは聞かないようにした。二人の姿を複数人の者が見ていたが遠くからだったために誰も気にする様子もない。
そして残されたリキはやがてユピテルによって保護されることになる。それが事の全容である。統括責任者のオルフェにはユピテルが適当な理由をつけて始末書に記入させた。
だから真実を知る者はユピテルのみで、当事者であるリキとガイ、そしてキリエはそれぞれが堕天使となり記憶を抹消されたために真実は闇に葬られることとなったのだった。
とても嫌な夢を見たような気がする。
うたた寝をしていたキリエはぼんやりとする頭でその夢を思い出そうとしたが無理だった。適当なソファーでゴロリと横になったまま眠っていたせいか少し体が痛かったが、特に気にすることなく欠伸をしながらソファーから降りる。
「はー…、何だかやけにリアルな夢だったような…。まぁ、どうでもいいけど。そんなことよりガイはどこに行ったんだよ…」
辺りを見回すがガイの姿はなく、キリエは少し苛立った様子でチッと舌打ちをした。
最近、ガイはある堕天使に少し熱を上げているらしい。キリエはそれが気に食わなかった。いつもであれば適当に見つけた堕天使を襲って食って捨てて、ただそれだけだったのに。たった一人の堕天使にあのガイが夢中になっているのだ。
名前は何と言っていたか。キリエの苛立ちが膨れだした瞬間、ギイ…と音がして部屋の扉が開いた。ガイが帰ってきたらしい。
ここは魔族長の部屋であり、つまりはガイの部屋で、キリエはいつもそこへノックもなく入り我が物顔でドカリとソファーへ座っているのだ。
ガイはそれを勝手にしろと言わんばかりに気にする様子もないらしい。それを許されているのは昔から親しくしているキリエくらいのもので、キリエもそれをひっそりと心の中で喜んでいる。
まるでそれが自分だけの特権で、自分だけがガイの特別だと言われているようでうれしかったのだ。実際にはガイのような大魔族の長に近寄るような者がいないだけなのかもしれないが。
ほとんどの魔族はガイの凶暴さを知っておりそれを恐れているためになるべくなら遠ざかりたいと思う者を、キリエだけは何故かガイに好意を寄せているのだ。
初めて出会った時からずっとキリエはガイの傍にいたがったし、ガイも別にキリエを近づけようとも遠ざけようとも思っていなかったから好きにさせているだけなのだろう。特にキリエだけを好いているというわけでもなさそうである。
ガイにとってはどれも同じ魔族であり、弱者だった。弱者は殺す価値もないが、歯向かえば殺す。ただそれだけのことだ。
「どこ行ってたんだよ?せっかく来たのに待てど暮らせど戻ってこないし」
「…来いとも待てとも俺は言っていない。お前が勝手に俺の部屋に入って勝手に待っているだけのことだろう?」
「それはそうだけど…」
「…用がないなら出ていけ。ここは俺の部屋だ」
何やら機嫌が悪そうなガイの様子にキリエは少しムッとしたように視線を向けた。
「やけに機嫌が悪いけど、エサが見つからなかったとか?アンタだったらちょっと気配を感じればすぐに捕まえられるだろ。堕天使なんて探そうと思えばそこらに散らばってるんだから」
「ふん、邪魔が入ったんだ。せっかく見つけたと思えば…」
「……見つけたって、何を?」
「…俺のエサ、だ。アレは絶対に生きているはずだ。近いうちにまた地上へ行って今度こそ俺が食う。アレは俺だけのエサだ」
「………」
思い出したようにニヤリと笑ったガイに、キリエは確信した。
ガイの特別なエサ、最近熱を入れている堕天使、例の堕天使を思い出してガイは笑っている。ゴミくずのような堕天使一匹にガイは笑っている。
全身の神経がプチプチと切れていくような気がした。キリエはガイを見て尋ねた。
「…ねぇ、アレって誰のこと?堕天使?」
「ああ、堕天使の…名は、リキ、だったか…。アレは今までの中でも最高ランクの美味そうな匂いをさせていた。だからアレを食うのは俺だ。誰にもアレは食わせん。絶対に俺が食う」
「………リキ…」
ガイが初めて獲物にした堕天使の名前を覚えた。その時、キリエの中で全ての感情が冷え、固まってしまった。
殺すしかない、そう思った。ガイの特別になった堕天使のリキを殺さなければ、自分だけがガイの特別でなければ、ガイの特別は自分だけがなるのだ。リキを殺す。
キリエの口元がニタリと弧を描いた。
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